■ 高速トラックと評価された「トップエースCL」 |
|
世界陸上2007大阪の檜舞台となった「トップエースCL」トラックをマスコミは「高速トラック」と呼び、世界のトップアスリートも長居で多くの自己新記録を出して、名は体を表すことを証明しました。
私どもは、高速トラックを「自分でも思いがけないほど早く走れるトラック」と捉えており、それを生み出すメカニズムを次のように考えています。 |
|
|
|
選手の足が着地した時、極めて短時間の間に2回の衝撃を受けます。
Fig1およびFig2で、ヨコ軸は時間、タテ軸は選手の足が受ける力を表します。
Fig1の特性曲線は足が着地した瞬間の最初の衝撃(受動的衝撃)を表しますが、この時トラック面が圧縮され、選手のエネルギーが注入されます。
圧縮されたウレタン舗装材は即座に回復しはじめ、この時の状態を@Bの特性曲線が表し(能動的衝撃)、選手が注入したエネルギーが選手に戻されます。
Fig2の特性曲線@は比較的ゆっくりと(と言っても10分の1秒以下です)戻り、Bはこれよりも早く戻るタイプの舗装材を表します。
この時、ゆっくり戻る@では「柔らかく踏ん張りが利かない」と感じ、素早く戻るBでは強い衝撃を感じます。
WA(国際陸上競技連盟)はこの点に注目して、選手に極度の衝撃を与えない衝撃特性が得られるような品質基準値を定めていますが、基準値に適合するだけでは「高速トラック」が得られないところに舗装設計の難しさがあります。
長居陸上競技場の「高速トラック」は、WAの基準値内に収めながら、選手に強い衝撃感を与えるFig1の受動的衝撃(Fig2のA)を減らしつつ選手にエネルギーを戻す能動的衝撃が最大に活かされる独自の特性曲線の研究と、それを実現することによって生まれました。
表-1 WA「クラス1」品質基準値
特性項目 |
試験条件 |
規格値 |
1、瑕疵 |
|
気泡、亀裂、剥離などの瑕疵が認められないこと |
2、平坦性 |
|
4m定規で6mm以下 1m定規で3mm以下
局部の段差 1mm以下 |
3、厚さ(サンプル厚)
|
|
平均12mm以上、最小10mm以上
10〜10.5mmの部分5%以下 |
4、衝撃吸収
|
0℃〜50℃ |
35%〜50%の間 |
5、変位量
|
10℃〜40℃ |
0.6mm〜2.5mmの間 |
6、摩擦
|
ポータブルスキッドレジスタンス |
Wet 0.5以上(47以上) |
7、引張強さ
|
|
非透水性表層 0.5Mpa以上
透水性表層 0.4Mpa以上 |
8、切断時の伸び
|
|
40%以上 |
9、色調
|
カラーハンドブックによる |
合格 |
10、排水性 |
|
水を張って20分間の排水後、水がトッピング面を上廻らない |
|

長居陸上競技場「クラス1」認定書
|
■ 「トップエースCL」の新オーバーレイー工法 |
|
全天候舗装材は使うと共に表面が摩耗してバランスが崩れます。陸上競技場走路の場合は、特に使用が激しい1〜2コースに、この傾向が多く見られます。
これを経済的・合理的に解決するのがオーバーレイ工法で、摩耗した上部層を数o切削除去し、その部分に新しいウレタン材を補充して再生します。
通常の改修工事であれば上記の工法で用が足りますが、国際陸連(IAAF)主催の競技会を開く競技場は厳しい「IAAF全天候舗装材の品質基準クラス1」に適合することが義務づけられており、安易な改修工法では、これに合格しなくなる恐れがあります。
「IAAF世界陸上2007大阪」を迎えた大阪市長居陸上競技場がこれに当たりました。
トラック舗装材は下部弾性層と上部層の2層構造で作られ、当競技場は建設後10年を経過したため、10年前の仕様による弾性層と現在仕様の上部層用材料の組み合わせでは、硬くなりすぎて「IAAF全天候舗装材の品質基準クラス1」に適合しないことが事前の調査で分かりました。
品質基準値を満たすために柔らかい材料を使えば、検査には合格しても「柔らかくて走りにくい」走路となり、「高速トラック」が得られません。
オーバーレイ工法と比べて工事費が約2倍かかる全面張替を行うか、又は、まったく新しい工法に依るかの状態に追い込まれました。
これを解決したのが新オーバーレイ工法で、厳しいIAAFの品質基準に合格しながら走りやすいトラックを構築することができます。
この新工法は、新しい補充材料による上部層と下部弾性層との間に新開発の「調整層」を設けた3層構造として、「IAAF品質基準」を満たしながら優れた衝撃吸収性と高反発性を獲得しました。
選手の皆様から「高速トラック」と呼ばれる長居の「トップエースCLトラック」は、走りやすさを追求した新オーバーレイ工法によって実現しました。
|
|
|
|

IAAFクラス1認定、品質試験のうち平坦性試験(長居陸上競技場)
|
■ 「ホワイトウレタン埋め込み工法」によるライン・マーキング |
|
長居陸上競技場のライン・マーキングは「ホワイトウレタン埋め込み工法」によりました。
この工法の優れた点は、ライン・マーキングの耐久性の高さにあります。
ライン材を吹き付けるか塗布する従来の工法では、塗膜厚が薄いため短期間で摩耗・褪色して再塗布する必要がありました。
「ホワイトウレタン埋め込み工法」はライン部分に走行エリアと同じ材質の白色ウレタン材を埋め込んでライン部と走行部の寿命を等しくする工法で、これによって鮮やかな色を長期にわたって保ち、再塗装の必要を無くしました。
|
|
|